シャドウウルスたちが争った際に崩れたのだろうか?
気になって近寄ってみると石が崩れ落ちた辺りの地面に何かが埋まったような跡があった。「そこがどうかしましたか?・・・こんなところに石造りの・・・慰霊碑とかでしょうか?」
カサネさんは石でできた何かがの元の姿が気になっているようだ。確かにこんな森の奥に明らかに人の手で作られた何かがあれば気にはなる。
「そっちも気にはなったんだけど、この辺、石が崩れたせいで何かが埋まったような跡があるんだ。・・・ディグ」
俺は地面掘りの呪文を唱えてそのあたりの土を掘り返した。すると予想通り少し掘り進んだあたりで土が無くなり、そこにはぽっかりと口を開けた暗闇があった。
「こんなところに・・・洞窟、でしょうか?」
「っぽいな。でもかなり奥まで続いているようだ。先が見えない。ライト」光の呪文を使って穴の奥を照らしてみたが、それでもやはり行き止まりが見えない。何故かは分からないが嫌な予感が脳裏によぎった。
「確認しないわけにはいかない・・・よな。でもなんか嫌な予感がするんだ。慎重に行こう」
「分かりました」二人で音をたてないように慎重に進んでいくと、やがて前方がぼんやりと明るくなり始め、何かの物音が聞こえてきた。
「何だ?この先に誰かいるのか?」
「アキツグさん、静かに。光も消してください」俺が進もうとしたところでカサネさんに止められた。何かに気づいたらしい。
言われた通り光を消して、さらに慎重に進むとそこには少し広めの空間があり、そこには魔物達が屯していた。 何でこんなところに魔物達が?と疑問を浮かべる俺の背中をカサネさんが引っ張った。 見ると後ろを指さしている。戻ろうということか。 素直に従って、穴の外まで戻ってきた。「驚いたな、何であんなところに魔物達が居たんだ?」
「アキツグさん、ダンジョンに入ったことはありますか?」 「いや、ないけど・・・えっ?まさか?」 「はい。十中八九、これはダンジョンの入り口です。あの部屋の先にも道が続いていたようですし、形状も以前私が潜少しして二人の人間がやってきた。見た感じ一人剣士、もう一人は魔導士の様だ。「こちらは宮廷魔導士のエメノールさんだ。そしてこっちはうちの隊のカラブだ。と言っても半分は別の魔道部隊に所属している珍しい奴なんだがな」 「エメノールです。よろしくお願いしますわ」 「カラブだ。よろしく頼む」紹介された二人が挨拶したのに合わせてこちらも自己紹介を済ませた。 お互いの挨拶が済んだところでゴドウェンさんが続けた。「これからカサネさんにはエメノールさんと、アキツグさんにはカラブとそれぞれ実戦形式で模擬戦をして貰う。武器はそれぞれの獲物を使ってくれ。 救護班も呼んでいるから大抵の怪我は治療できるが、部位の切断のような致命傷を負わせるのは禁止だ。あくまで実力を図るのが目的だからな。終了のタイミングも俺が判断する」ゴドウェンさんがそう説明した後、まずは俺とカラブさんが戦うことになった。 カラブさんは軽鎧に片手剣と見た感じはシンプルな装備のようだ。(相手は魔法も剣も使えるオールラウンダーだ。どっちよりなのかは分からないが、俺の技量的に懐に入られたら剣技では絶対勝てないだろう。何とか距離を取りながら相手の攻撃を避けるしかない)開始の合図とともにカラブさんは氷の槍を生み出してこちらに放つと、その後ろに追従するように突進してきた。(魔法と近接の時間差攻撃!?ってかそのやりあたったらヤバいんじゃないのか?)こちらも構えていた魔銃の射撃で氷の槍を破壊して、そのまま照準をカラブさんに向けつつ、左手のナイフで横薙ぎにスラッシュを放ってけん制した。 カラブさんはこちらの動きを見ると直前でバックステップしてスラッシュを躱して、何か意外そうな表情を浮かべると今度は単身で突っ込んできた。(さっきより速い!)銃撃でけん制するが右に左にと躱されて当たらない、その間に接近を阻むためディグを発動して前方に穴を作り足止めを狙う。だが、その瞬間相手はジャンプで穴を飛び越えるとそのままこちらに斬りかかってきた。 しかし空中ならこちらの攻撃を避けることはできないはず! 俺
「なるほど。でも、友人として認めて貰ったとはいっても、護衛役となるとまた話が違うんじゃないか?」 「えぇ。まずは話してみないとだけど、うちの兵士と模擬戦をして実力を示す必要はあるでしょうね」 「王城の兵士なんて精鋭だろ?流石にそんな人達に勝てる自信はないぞ」 「もちろん、そこまで無茶は言わないわよ。ある程度戦えることが証明できれば良いの。戦力の調整はこちらでできるし、今回は私自身が戦って最下層まで行けるようにならないと意味がないからね」つまり護衛というのは建前上の話で、ある程度戦えることさえ証明できればあとはミアがお願いして何とかするということだった。 正直自信はないが、それくらいはできなければダンジョンに入る資格はないということだろう。ミアの試練が終わるのを待つのも手ではあるがそれだといつになるか分からないしな。「分かった。ミアも大変な時に悪いけどそれで頼めるか?」 「任せて!前は大したお礼もできなかったし、お父様も何とか説得して見せるわ。時間もないし私は早速お父様に話してくるわね。あなた達のことはゴドウェンに任せましょうか」言うが早いかミアは兵士を呼ぶと、ゴドウェンを呼ぶように伝えていた。 少しするとゴドウェンが急ぎ気味にやってきた。「姫様、御用でしょうか?」 「えぇ。あなたに頼みたいことがあるの」ミアがゴドウェンに耳打ちすると、彼は「しかし、それは・・」などと渋る様子を見せていたが、やがて言っても無駄と諦めたのか「承知しました」と頷いた。「それじゃ、ゴドウェンあとのことはよろしくね。あっ!アキツグ、さっきの推薦状を預かっても良い?」 「あ、あぁもちろん」 「ありがとう。それじゃまたあとでね!」俺から推薦状を受け取るとミアは楽しそうに父親のいる執務室に向かっていった。「やれやれ、ダンジョン攻略に前向きになられたのは喜ばしいことではあるが、これじゃ俺達の立場がないな」そんなエルミアを見ながらゴドウェンさんが愚痴のようにそう零した。「ミアはダンジョン攻略を嫌がっていたんですか?」 「い
カサネさんが魔法の修練をしながら数日、俺達は再び王都にやってきた。「そういえば、ここに来るのは例の事件依頼か、流石に王城も落ち着いてるかな」 「そこは大丈夫じゃないですか?あの時内通者を捕まえたようでしたから、そこから別の問題が起きている可能性はあるかもしれませんけど」 「もしその辺でごたごたしていたらすぐに許可を貰うのは難しいかもしれないな」 「仮に許可が得られても手続きに時間を取られる可能性もありますしね。とりあえず、考えるのは行って見てからでいいんじゃないですか?」 「それもそうだな」まずは町で宿を取ってから、王城前までやってきた。 城門前の兵士さんにゴドウェンさんへの取り次ぎをお願いして待っていると、しばらくして城の中からゴドウェンがやってきた。「久しぶりだな。姫様に会いに来たのか?」 「えぇ。いつ頃であればお会いできるでしょうか?」 「確認させよう。おい、姫様に予定の確認を」 「はっ!承知しました」 「お前達は一旦こっちに来てくれるか」言われた通り付いて行くと部屋の一室に案内された。「確認に行った部下が直ぐに戻ってくると思うから、悪いがそれまでここで待っていてくれ。俺も今は少し忙しくてな。またな」 「あ、お忙しい中ありがとうございました」ゴドウェンさんは手をひらひらさせて部屋を出て行った。 少しするとノックをして兵士の一人がドアを開けた。「姫様が直ぐにお会いになるそうです。こちらへどうぞ」兵士の案内で前にも来たことのあるミアの部屋までやってきた。 兵士の人が扉をコンコンとノックする。「姫様、お二方をお連れしました」 「入って貰って頂戴」 「はっ!」入室を促されて俺達はミアの部屋に入った。「久しぶりね。全然来てくれないから心配しちゃったじゃない。でも、皆元気そうね。安心したわ」 「ミアも元気そうで何よりだ。まぁ色々あってな。土産話には困らないと思うぞ」 「ミアさんお久しぶりです」
「シディルさんの孫のクレアさんのことですか」 「そう、本当に残念でならないわ。本人にその気があれば歴史を変えられるほどの存在になれたかもしれないのに。まぁ無理強いしても仕方ないしね。シディルなら上手くやるでしょう。優しくていい子だったしね」そう語るフィレーナさんは本当に残念そうだ。あの舞台劇のパフォーマンスを見る限り彼女の実力は疑うべくもない。フィレーナさんのこの反応も当然と言えば当然だろう。「少し横道に逸れてしまったわね。ということで、二つ目についてはあなた次第よ。自分で経験を積むのも、クレアちゃんと意見を交わしてみるのもあなたの自由よ」 「わかりました。二つの属性を得ることができたら一度話に行ってみようと思います」 「そう。それじゃ、クレアちゃんには私から連絡しておいてあげるわ。ちょうどシディルに手紙を出そうと思っていたところだしね」 「ありがとうございます」そして、フィレーナさんが指を鳴らすと俺達は屋敷のリビングに戻っていた。「それじゃ、難しい話はここまでにしましょう。久しぶりに真面目に話しちゃって疲れちゃったわ」そう言って彼女は自室に戻っていった。文字通り部屋で休むのだろう。 学園長が真面目に話すのが久しぶりっていうのはどうなんだ?と思わなくもなかったが、怖いので口にはしなかった。 その日はフィレーナさんの好意でもう一日泊まらせて貰い、翌日俺達は王都に向けて出発することにした。「色々とお世話になりました」 「良いのよ。今回はこちらも助かったわ。またいつでもいらっしゃい」フィレーナさんに見送られながらパーセルの街を出る。 街道をしばらく進んでいる間もカサネさんは色々と考えている様子だった。 あれだけ色々なことが急にあったのだ無理もないことだろう。 それからさらに少し経ったところで魔物達の襲撃があった。「二人は馬車をお願いします」真っ先に反応したのはカサネさんだった。彼女にしては珍しく詠唱してから正面の敵に対して呪文を発動させた。「スプラッシュ・ストーム」いくつもの水の塊が風の力で高速
「良いわ、続きを話しましょうか。これは王家とそれに関わる一部のものしか知らないことだけれど、王都ハイロエントの地下には特殊なダンジョンが存在しているの。そして、そのダンジョンの最奥には後天的に新たな属性を得られる秘宝が存在しているわ」あの王都の地下にそんなものが・・・でも、そんなものがあるのなら何故王家はそれを秘密に・・・いや、だからこそなのか。 俺達の表情から理解したのを読み取ったのかフィレーナさんが続ける。「そう。王家はその秘密と共に複数の属性を操れる王としてその地位を継承してきた。王都ハイロエントがあの場所に作られた理由であり、王家の最重要機密の一つという訳」 「フィレーナさんは何故そんなことを知っているんですか?というか、それを話してフィレーナさんは大丈夫なんですか?」 「なぜ知っているのか?という問いの答えは私もそれに関わっている人間の一人だから。詳細は内緒ね。話して大丈夫なのか?という問いの答えはあなた達次第になるわね。私は信頼の置ける者には話して良いと許可を貰っているの」それはつまり俺達がその信頼を裏切るようなことをすれば、フィレーナさんもその責任を取らされるということか。「あの、その秘宝っていうのをダンジョンから持ち帰ったりはしてないんですか?そうすれば何度もダンジョンに入る必要はないと思うんですけど」 「私も実際に見たわけじゃないけど、秘宝とは言っても実際は儀式場の様なものらしいわ。だからまるごと持ち帰るのは無理なのよ」 「なるほど。そういうことですか」フィレーナさんの返答に、カサネさんは頷いて納得した。「まぁ話せるのとそのダンジョンに入場させられるのは別の話だから、私から推薦はできても入場許可までは出せないんだけど、あなた達ならそこは大丈夫でしょう ・・・たぶん」 「今最後に小さくたぶんって言いませんでした?」 「小さいことを気にしてたらモテないわよ?なんて冗談はともかく、私は王様ではないから、流石に断定まではできないわ。推薦状は渡すからあとは何とかして頂戴」予め準備していたらしく、近くの棚から取り出した推薦状をこちらに渡してきた。
カサネさんが一日講師を終えた翌日、フィレーナさんが学生達からの評価や感想を纏めたアンケート結果を持ってきた。 なお、現在俺達はフィレーナさんのお屋敷でお世話になっている。「あなたの講義、かなり好評だったわよ。カサネ先生を学園に勧誘して欲しいって嘆願書を出してきた生徒もいたくらい」 「うっ。そんな風に言って頂けるのは有難いですけれど、私は教師になるつもりはないので」 「そうでしょうね。まぁそれは分かってたから気にしないで。こちらで適当に処理しておくわ」フィレーナさんはそう言って自身で淹れてきた紅茶に口を付けた。 その話題に合わせて俺やロシェもそれぞれの感想を述べた。「確かにカサネさんが教師だって言われても違和感ないくらいしっかり授業してたもんな」 『そうね。他の人は分からないけれど、立派に教えられていたんじゃない?』 「えっ!?お二人も見てたんですか?」 「あぁ。見られてるのに気づいたら緊張するかもって、フィレーナさんが遠見の部屋っていうのに案内してくれてさ、そこで見学させて貰ってた」今になってそのことを知らされたカサネさんが恥ずかし気に頬を赤く染めた。「そ、そんな・・・わ、忘れて下さい。今すぐ!」 「いや、そんな無茶言われても。。それに別に恥ずかしがるようなことはなかったと思うけど」 「見られてたこと自体が恥ずかしいんです!うぅ、もういいです」カサネさんはプイっと顔を背けてしまった。拗ねてしまったようだ。「ふふっ。恥ずかしがるカサネちゃんも可愛いわね。やっぱり若い子達を見ているのは楽しいわ」 「・・・フィレーナさん、そういうことを言うのって歳・・・いえ、なんでもないです。ごめんなさい」カサネさんの反撃はフィレーナさんの一瞥で撃ち落とされてしまった。 怖い。やはり逆らってはいけない人だ。「さてと、こういうお話も楽しいけれど私もちゃんと報酬の話をしないとね」そう言うとフィレーネさんは表情を真剣なものに変え、パチンと指を鳴らした。 すると、足元に魔法陣が現れ前と同じよ